「この荷物どこに置いたらええかな?」 「あ、それ全部横んとこに置いてほしいとこの名前書いてるからそこに宜しくお願いしますわ」 「ああ、これっすか。わかりましたー」 「ちっさい箱はわたしが運ぶから置いとってや」 両親死んでもうてひとりになった。そんな話ないやろーって自分でも思ってたけど、今、身を持って体験してますわ。 わたしの名前は って言います。中学校二年生です。 普通、両親死んでしもたら、親戚に預けられたりするもんですけど、残念ながら、両親には兄弟なんか居てなくて、介護と療養が必要で病院に入院してるばあちゃんしか身寄りないんですわ(ばあちゃんも、兄弟なんか居てないし、死んだじいちゃんは大家族やけど、全国あちこち散らばってもうて、しかも連絡付かんのよ)。施設なんか死んでもごめんやわ。 せやから、ばあちゃん名義で、ばあちゃんが入院してる病院の近く。この土地にやってきたわけで。 今日からここに一人暮らしってわけや。ちなみに前は市外に住んどったから土地勘ゼロやで。 ほとんど弁護士さんが手配してくれたさかいに、わたしはめっちゃ感謝してる(しかもおとんの昔からの親友や)。その弁護士さんはめっちゃいい人で、葬式とかいろんなわたしの身辺整理してくれたし、一回、自分が引き取るって言ってくれた。でも赤の他人にそんなに世話になられへんって断った。 幸い、おとんは外資系、おかんは通訳の仕事しとったから、金だけは困ることなかった。 だから、わたしはここにおることにした。このおんぼろのアパートが今日からのマイホームや!よろしく頼むでほんま! 両親死んだからっていつまでもウジウジしてられへん。そりゃあおとんもおかんももう会われへんと思ったら今すぐにでも泣けるほど悲しいけど、でも、情けない格好したない。わたしはおとんもおかんもめっちゃ自慢や。そんな自慢の親から出来た子供や。だから自分も両親が自慢できるような子目指すんや。おとん、おかん、天国で見とけや!わたしはキラキラ輝く人生を手に入れたる! 「あ!佐藤さんそれ置いとってってゆったやん!」 引っ越し屋さんのにいちゃん(佐藤さん。24。彼女おらんらしいで)がさっき置いといてって言ったダンボールも持っていこうとする。それを止めたけど、佐藤さんは「ええねんでーちゃんすわっときや」ってわたしの頭をぽんぽんして行った。 わたしはなんもすることなくて、持ってたボストンバックを地面に置いて、ぼーっと引っ越しの作業を見てた。もう一人の引っ越し屋のにいちゃん(こっちは田中さん。佐藤さんの先輩や)が携帯で会社の人と連絡取ってるらしくて、携帯を耳に当ててた。蟻さんが餌運ぶみたいにダンボールが部屋の中に入って行くの見るのは楽しい。部屋の中がどんどんダンボールで埋め尽くされていって、でも、トラックの中はどんどん減ってって。 元から荷物が少ないからすぐにダンボール運びは終わった。 わたしはお礼に二人にお菓子の詰め合わせを渡して、お礼もちゃんと言って、バイバイした。 さて、荷ほどきはじめるか! 家に入って、まずは窓を開ける。それから布団の入ったダンボールを開けて押し入れに入れる。管理人さんが先に掃除しててくれてたらしくて、全然埃はない。ありがたいわあ。 服とか、化粧品の入ったダンボールも開けて、それもタンスやら、化粧台に直していく。前に住んどったひと、結婚するから出てったらしくて、家具を置いて行ったらしい。大家さんに、気に入らんかったら捨ててな、て言われたし、前の家から持ってくることも出来たけど、前の家はフローリングに置くようなもんばっかりやから止めて処分した。前住んでた人にも感謝やな! だいたいの荷ほどきは終わって、お茶飲んでひと段落してたら、携帯が鳴った。着うたは、カエラちゃんや。ディスプレイを見たら 中島さん てピカピカしてる。中島さんは、弁護士さんな。 通話ボタンを押して耳に当てると、優しい声が聞こえてきた。 『ちゃん、俺や。引っ越しどうや?』 「もう、だいぶ荷ほどき終わったわ。引っ越し屋のにいちゃんも優しかったし」 『そうか、良かったわ。ちゃんと持たせた引っ越しそば持ってお隣さんに挨拶しに行くねんで』 「うん!わかってる!ありがとうな」 『なんか困ったことあったらいつでも電話しいや』 「はーい」 『ほんならまたな』 「ん。中島さんほんまありがとう」 『子供は大人に甘えなさい。ほならね』 「ばいばーい」 電話を切って、ボストンバックを開ける。その中には中島さんが持たせてくれた引っ越しそばが入ってて、それを持って外に出た。もう日は傾き始めてる。左隣は誰も住んでないらしくて、窓が真っ暗。右隣はちゃんと電気も点いてて、回ってる換気扇からほわほわとおいしい匂いが入ってくる。ドキドキしながらチャイムを押したら「はーい!」て男の子の返事が聞こえてきた。カチャリとそーっとドアを開けたのは、たぶん返事した男の子やろ、ちっちゃい小学生高学年くらいのこがドアの隙間からこっちを覗いてた。 「こんばんは、おねえちゃん!」 にこーっと八重歯をむき出して笑う顔は可愛くて思わずこっちもにこにこしてしまう。「こんばんわ、お母さんおる?」て言うと、ちょっと待ってな、とバタバタ走ってお母さんを呼んできてくれた。 男の子を腰にぶら下げて。 「こんばんはー」 「ああ、こんばんわ。もしかしてお隣に引っ越ししてきた子?」 「はい!です、これからよろしくおねがいしますー」 「よろしくなあ」 「え!おかあちゃん!お隣さんなん!」 「そうやで金ちゃん。ほら、アンタもちゃんと挨拶しとき」 お母さんのその言葉を聞いて、男の子は前に出てきて頭をぺこりと下げた。 「初めまして!道頓堀第一小学校6年1組の遠山金太郎です!みんなからは、金ちゃんって呼ばれてます!」 「初めまして、です。四天宝寺中学校に転校します!二年生です!」 金ちゃんみたいにぺこりと頭を下げると、金ちゃんのお母さんはクスクス笑って金ちゃんの頭をなでた。 「あ、これ、引っ越しそばなんですけどどうぞもらってください!」 「あら、ええの? 気遣ってもらって悪いわあ」 「いやいや、これからお世話になるかもしれへんから、こんなんですみませんけど」 「そう?じゃあもらっとくわあ、ありがとうね、ちゃん。あ、そうやちゃんご飯はもう食べたん?」 「いや、さっきまで荷ほどきしてたんでまだです」 「じゃあうちで食べていきなさいよ」 「え!そんな…悪いし!」 「そんな遠慮せんでええよ。家やったら一人になってしまうやろ? みんなで食べた方が美味しいねんで、ほら、上がり」 そう言って金ちゃんのお母さんはわたしの手を握って家に上げてくれた。金ちゃんは「やったー!おねえちゃんとご飯やー!」と両手を広げて中に入って行った。 「すんません、お邪魔して」 「もう、お隣さんやねんから遠慮することないの!それに、金太郎がようけご飯食べるからいっつも作りすぎてもうて、ちゃんが食べてってくれた方がうちはありがたいんよ」 「すんません、ありがとうございます」 もー謝らんでって!と金ちゃんのお母さんはバシッと背中を叩いてきた(ちょっと痛い)。 でも、食べて行きって言ってくれたんやから甘えることにする。 なんやこれ!お隣さんもめっちゃいい人とかわたし恵まれすぎやろって! 「わたしなんか手伝いしますわ」 「そう?じゃあここで手洗って、台に乗ってるおかず持って行ってもらってええかな?」 「はーい!」 「金太郎!アンタも手伝ってや!」 「はーい!」 ばたばたと走ってきた金ちゃんと一緒に手を洗って、ご飯の準備をする。 今日はきんぴらごぼうと高野豆腐とひじきの煮物や。めちゃくちゃええ匂い。 ぎゅーとお腹が鳴って、口の中はよだれでいっぱい!おいしそ! 「もうおとうちゃん帰ってくんねんで!おとうちゃんな、郵便屋さんやねん!」 10分くらい、金ちゃんと喋ってたら、玄関の方から扉のあける音が聞こえてきた。 「あ!おとうちゃんや! おとうちゃん!おかえりー!」 玄関の方に走って行って、金ちゃんはお父さんを迎える。そしてすぐに金ちゃんはお父さんと一緒にやってきた。金ちゃんのお父さんは、金ちゃんを抱っこしてリビングに入ってきた。 「こんばんわ、お邪魔してます」 「お、こんばんわー。いらっしゃい、君が隣に引っ越ししてきた子かあ」 「はい、です。これからよろしくお願いします」 頭を下げると、お父さんもこちらこそーって頭を下げた。 「ほな、みんな、ご飯にすんで」 「やったー!」 お母さんも入ってきて、持ってきたお盆に乗ってるほかほかのごはんが御膳に並んでいく。 家で食べるご飯なんか、すごい久しぶりやったから、嬉しい。 おとんとおかんがおった時は、二人とも仕事で忙しくてご飯は外食とか多かったから、ホンマに嬉しい。みんなでいただきますって手を合わせて、箸を付ける。・・・・! おいしい!美味しいでこれ! 「おねーちゃん!きんぴらはな!きんぴら丼にして食べたらおいしいねんで!」 金ちゃんがきんぴらごぼうの入った器からお箸でもそもそとご飯に盛り付ける。 ええ、それ乗せすぎやろ!ってくらい乗ってたけど、それをがっつく姿を見てたら美味しそうだったので思わず真似してみた(さすがに金ちゃんよりは乗せてへんよ)。 ていうかまじうま!きんぴら丼うっま!!! 「美味しいで!美味しいで金ちゃん!」 「やろ!おかあちゃんのきんぴらごぼうは世界一や!たこやきが一番おいしいけどな!」 たっぷりご飯をもらった後に片付けしてから金ちゃんとまったりしてると、缶ビールを飲んでいる金ちゃんのお父さんがテレビを見ながら話しかけてきた。 「ちゃん、良かったら毎晩ご飯食べにおいでや」 「あら、それええなあ」 「ええ!そんなん悪いです!」 「毎日ばんごはんおねえちゃんと食べれんの!?やったー!」 食卓のまわりを金ちゃんがぴょんぴょん飛んで喜んでる。 いやいや、いやいやいや!あかんやろ!迷惑すぎるやろ! 「ほんま悪いからええですって!」 「ええやないの、ちゃんご飯するの大変やろ? 迷惑やと思うんやったら手伝いしてくれたらいいから。それに私、女の子欲しかったんよねえ、ちゃんがおってくれたらうれしいわあ」 「わいもー!」 金ちゃんがぎゅーって抱きついてすりすりしてくる。 ひー!かわいい!そんなこと言われたら断りづらいー! 「な、ちゃんそうしいや」 「う・・・はい・・・」 「じゃあ決まりやね」 「わーい!わーい!毎日おねえちゃんとごはんや!やったー!やったー!」 金ちゃんのテンションは最高潮で、ついには押し倒された。馬なりになってどっすんどっすんと喜ぶ姿はかわいいけど、吐くでこれ…!(ご飯食べてすぐやっちゅーねん!) |