何年も此処で住んでいるけれど、新宿の凍えるような寒さは、慣れない。 人はこんなに多いのに、どうしてかな、つめたいな。 はあ、と手に息を吐いて擦り合わせる。指先は真っ赤で、暖まる様子は一向に無い。 もたれていた手摺りをずらしながらずるずるとしゃがみこんで空を見上げた。
今日は 星が 見えない。
陰欝な気分になってその場で膝を抱えていたら、隣で音を立てて誰かが座った。
「トシアキ」
わたしはちらりと横目で彼を見て、遅いよ、と笑った。
「うるせー、つかテメェ何でンな薄着なんだよ」
見てるこっちが寒ィ、彼はそう言って、わたしとの距離を詰めた(気がした)。
「トシくんは、素直じゃないっすね」
「いーかげんその呼び方ヤメロ」
「トシアキ、お腹減ってない? おでん食べたいね」 「殴るぞ」 「飴もたくさん買おうね」
トシアキの手を掴んでぐいぐいと引っ張ってやる。後ろで、ウゼェだの、人の話は何たらだのと、ぶつぶつ文句を言っていたけど、ぎゅ、と強く手を握ると、抗議の声は止んで返事をするかのようにトシアキも指に力を込めた(指輪がゴツゴツして痛いのは内緒なのです)。
トシアキは口は悪いし手も早い(色んな意味で)けれど、とても寂しがり屋だ。孤独を謡う癖に孤独が嫌いで、夢を見るのは嫌がるのに愛を乞う。 わたしは、彼を放っておけない。このつめたい新宿で、ただひとつわたしが手放せないのは、彼のぬくもりだ。(ぬくもり、といっても決してあたたかいわけではない)
指先がトシアキの体温で暖められて、気持ちもほかほかする。わたしの心が満たされる。彼が、孤独を忘れる。そしてまたわたしはあたたかくなる。陰欝な気持ちがなくなる。彼をとてもいとしく思う。彼は、わたしをどうおもう?
「」
「トシアキ、おでん食べて、飴食べたら一緒にお風呂に入ろう、んで、歌を聴きながら一緒に寝よう」
トシアキは何も言わなかった。だけどそれでいい。
(ふたりで、たくさん、あたためあおうよ)(さむいから)(あなたがとてもいとしいから)
|