流れ着いた果てに見た青を今も覚えている--2











「星ってなんのこと?」

 ラズロは食器をベッドサイドのテーブルに置いてに聞いた。
 はあれからガイエン海上騎士団の最高権力者、団長グレン・コットと、副団長のカタリナによる尋問を行われた後、保護という名目上、監視されている。身元も分からず、彼女の故郷の名前さえも聞いたことが無い。彼女の境遇を持て余したための保留の措置とも言えよう。
 世話役には同じ騎士団のポーラや、ジュエルが交代で付いたのだが、彼女たちには全く心開かないらしかった。食事を持って行っても、一口も口にせず、話しかけても、ベッドの上で膝を抱えてずっと窓の外を見ているらしい。グレンに相談すれば2、3日もすれば腹が減って何か口にするだろうと甘く見ていたが、どうやらそれは違うらしい。彼女は一週間以上、食事を、水すらも口にしていない。さすがに心配したカタリナが食事を持って諭しに行ったらしいが、彼女は全く興味無さそうに聞き流していたらしい。カタリナはため息を飲み込みながら彼女の傍らに座り込み、彼女に言った。

「あなたは何をして欲しいの?」

 その言葉に初めてはカタリナを仰ぐ。黒目がちの瞳に少し光が宿った。

「あの人に会いたい、深い海の色の瞳のひと、きれいなひと」
「海の色の瞳…あなたを見つけた彼、ラズロのことかしら」
「ラズロ、あの人、そういう名前なの」

 口の中で何度も転がして彼の名前を呟く。カタリナは少し考えて、もう一度口を開いた。

「分かったわ、でも彼は今任務中なの。夕刻を過ぎると戻ってくるだろうから待ってくれるかしら?」
「うん」

 今までのやり取りが嘘のようには素直に頷いた。カタリナはほっとして、肩の力を抜いた。そしてもう一言、付け足す。

「彼に食事を運ばせるから、それは食べてくれるかしら?」
「…うん」

 そして話は冒頭へ。
 ラズロはベッドの傍に添えてあった椅子に腰かけて、騎士団のコック、フンギが作った特製の病人食を取り皿へ粧う。それをに持たせて、彼はの言葉を待った。
 ややあって、は口を開く。

「そう遠くない未来に、あなたは一等輝く星になる。星の輝きに導かれて皆が君の元へ集うよ。――わたしは添え星、あなたの隣に寄り添う星」
「添え星?」
「…時が来れば解かると思う」

 匙を手に持っては食事を始めた。ラズロは先ほどのの言葉を反復したが、意味が分からない。ラズロが考え込んでいると、は苦笑しながらラズロを見た。

「こんなこと言ってるけど――わたしも詳しくは知らないんだ。でも、海が、紋章が、少しだけ教えてくれたよ。この世界のことを。わたしに何が出来るか分からない、わたしが何をしたらいいのか、役目が分からない、それでもわたしはこの世界に求められた。それは意味があるんだと思う」

はラズロの手を握って、今度は綺麗に笑った。

「わたしは戻れない。此処で生きるしかない。わたしたち、きっと長い付き合いになるわ、よろしく、ラズロ」

その言葉に、ラズロは無意識にの手を握り返していた。自分を覗き込む少女の瞳の奥に、きらりと星の輝きが見えた気がした。






瞳の奥の輝き