はじまりのおはなし



















−−事実は小説より奇なり。
先人は上手いことを言ったモノだと、わたしは思う。
わたしは普通の社会人で、仕事帰りに帰路に立っていたところ、右も左も知らない場所に突然居た。
知らない男の子に抱えられて、ここ、ゴーイング・メリー号という船に乗り込み、事情を説明。というか、口論の果てに、仲間になれ。と言い渡されたのである。あまりの非日常的な出来事に思考はショート寸前。しかしまあ根本的にわたしは面倒くさがりなのである。早々に考えを放棄して、これが夢なら覚める。これが、もし、非現実的な出来事で「別の世界」に来てしまったのだとしたら、それは来てしまったのだから仕方ない。仕方なくはないけれど、そう考えるしかないのである。自分にはどうすることも出来ないのだから。悲観的になりすぎるのも、くよくよするのも性に合わない。兎にも角にも、この船に居ることしかないのだからと、仲間になることを選んだわたしは、只今、自己紹介と診察の真っ最中、である。ちなみに、服が汚れていたので、先ほどナミに渡された服に着替えた。ナミにモノを借りると全て借金として請求されるらしいが、これは後ほど知ったことであると補足しておく。


それはそうと、ずっとどこに隠れていたのか、もふもふと小さな毛皮をたっぷりとあしらった彼は聴診器や舌圧子でわたしの体を調べてる彼の名前は、

「おれはトニートニー・チョッパー。この船の医者だ!」

と胸を張って彼は言う。現代人も真っ青ななんとも奇妙な二足歩行の喋る青っ鼻の鹿。いやいや、トナカイさんなのらしい。わたしの顔を覗き込んで、あれよこれよと診察するその姿は医者そのもので、いや、医者なのだが、トナカイが医者って凄い。世界は広い。
チョッパー曰く、「おれはヒトヒトの実を食べたんだ!」らしい。ヒトヒトの実ってなんだ。ていうか凄くかわいいんだけど・・・。

「ああ、そう言えば悪魔の実を知らないんだっけ?」
「うん、それってなあに?」

話しかけてくるナミを尻目に、大きく口を開ければ、ペンライトを翳してくりくりの目がわたしの口を覗く。

「悪魔の実っていうのはね、”海の悪魔の化身”と呼ばれていて、食べたひとは特殊な能力が身に付くの。実によって様々な能力が存在すると言われているわ。それを食べたひとを”悪魔の実の能力者”と呼ぶのよ」
「なにそれ凄く便利だね。ビックリショーだ」
「なにも便利なだけじゃないわ。リスクもあるのよ。悪魔の実を口にしたひとは海に嫌われてしまって、元々泳げる、泳げないにかかわらず、一生カナヅチになると言うの」
「カナヅチ? それってリスクの内に入るの?」
「バカねえ、あんた。ここどこだと思ってるの?」
「船の上−−ああ、そういうことか。確かにリスクだわ」
「でしょう?チョッパーと、そしてこのルフィ−−」
「あ!あにすんだ!!」

にょーん、とナミに顔を引っ張られている麦わら帽子の男の子、ルフィお餅みたいにほっぺたを引き伸ばしている。

「ルフィはゴムゴムの実を食べて全身ゴム人間になったってわけ」

手を離すとぱちんっと音がして顔が元に戻る。なるほど、と頷くと、ルフィはほっぺたをさすりながらにしし、と笑った。チョッパーの診察も終わったみたいで、「もういいぞ、問題ナシだ!」と言ってから、器具を鞄に詰め込んでいる。

「ルフィって言うんだ。よろしくね」
「おう!モンキー・D・ルフィってんだ!お前はだな!」

お互い右手を出して握手していると、周りに「お前ら名前知らなかったのかよ!」とツッコまれた。息ぴったし!

「ったく、俺はロロノア・ゾロだ」
「ろろのあ・どろ?」
「ゾロだ!!」

ゾロ、ゾロ。うん、覚えた。
派手な緑の髪に左に3つ並んだピアス。腰にはどっしりと三本の刀を差している彼とも、握手した。とたんに。

「ああ!そんなのと握手したら綺麗な手がマリモまみれになっちゃいますよ!!」
「ああ!?ンだとコラァ!!」

一瞬にして金糸の髪を持つ、めろりーんが代名詞と言っていいスーツの男の子にぎゅっと手を握られていた。物凄い早業だ。

「初めまして、レディ。サンジと申します」
「あはは、よろしく、サンジ。わたしもでいいよ」
「そんな・・・!その様に綺麗なお名前を呼び捨てするなんてこと、僕には出来ません!」
「言ってろ、ぐる眉」

めろりん状態から一変、ゾロに向かってガン飛ばすサンジ。なんだ、仲悪いのかこの二人。周りを見ても気にした状態ではなくて、これが日常なのだと分かる。

「お、おれさまの名前はキャプテ〜〜ン・ウソップ!」
「キャプテン・ウソップ?船長さんなの?」
「そうだ!おれには8千人の部下が居る!!!異世界人よ!お前が何かを企んでたとしても、おれの優秀な部下たちが必ずしもお前のことを「テメェ、ちゃんに失礼なこと言ってたら卸すぞクソ野郎!!!!」ゲフッ!!!!」

鼻の長い彼がサンジに蹴られ、床に突っ伏す。わたしはくすくす笑いながら彼に手を差し出すと、ぎゅ、と握った。ああ、ホント、鼻が長い。

「ねえ、分かってる?この場合、わたしにとってはあなたたちが異世界人、ってことになるんだけど」
「そんなことより、この船の船長はおれだぞ!!」

ルフィが割り込んできて、わたしに誤解を解くように説明する。

「うん、なんとなくそんな気はしてた」
「そうか、ならいいんだ!」

にっと笑う彼はきらきら輝いていて、眩しさも覚えてしまう。

「最後は、私かしら?」
「ロビン!」

扉がゆっくりと開かれて、背の高い、とても美人なひとが出てくる。彼女もこの船の一員らしい。
柔らかな物腰は年上の威厳を感じさせる。

「ニコ・ロビン。よろしくね」
「うわっ!?」

わたしの肩からにょきっと手が生えたかと思うと、頭を撫でてから、ぱっと消えた。

「あなたも・・?」
「ふふっ、驚かせてごめんなさい。わたしはハナハナの実を食べたのよ」

くすくすと笑ってから、彼女は私に手を差し出した。
今度こそ握手をしっかりと交わすと、彼女はわたしをじっと見つめた。

「興味あるわ、異世界のこと。聞かせてくれる?」
「え?どうしてその話・・」
「わたしの能力は、体の一部を、一定範囲内のあらゆる場所から生やすことができるのよ。お話もこっそり聞かせて貰ったわ。事実は小説より奇なり。面白い言葉じゃない?」

ニコっと笑ったロビンの笑顔は魅力的だが、どことなくミステリアスなのは、わたしの気のせいではないのだと思う。















世界は大きい